2020年7月に起きた熊本豪雨による浸水被害から休業を余儀なくされ、21年8月に営業再開を果たした、熊本県人吉市の「清流山水花あゆの里」(有村充広社長)。
水害復旧プロジェクトでは、被災した地下1階と1階、一部2階の復旧にあわせ、既存客室のグレードアップ改装や屋上の7階部分に天空のテラス「KUMAGAWA」を新設するなど、個人客主体の営業方針に切り替え、付加価値の高い滞在を提供している。
同社が被災後にまとめた「ブランドブック」によると、被災当時は宿泊者と従業員あわせて100人が館内に滞在していた。球磨川の水位が堤防まで上がり、外より館内で上階に避難する方が安全と判断し、垂直避難を繰り返した。全館停電・断水のなか、ガスだけを頼りに料理を作り、非常階段を昇り降りして各客室に配膳した。有村社長は「スタッフ自身も家や家族友人のことが心配であったでしょう。そのような中、お客様を第一に考えてくれたスタッフの皆さんには頭が下がる思いでした」と振り返る。お客は丸2日間の滞在後、4台のバスでようやく帰宅の途に就くことができた。客室にはお礼や励ましの置き手紙が多数残されていたという。
復旧にあたっては、第一にスタッフを解雇しないと決めた。先行きが見通せない中、6割ものスタッフが残ってくれたことが、有村社長にとって大きな喜びであり心の支えになった。マスコミの取材を一切断り、政治家の視察受け入れを積極的に実施した。再建を望む近隣の声を多数引き受け、人吉の現状を政治に届け、助成金や補助金を調達できるよう奔走した。
有村社長は現在、有志とともに、まちづくりにも取り組む。「復興の大切なことは観光地としてだけではなく、子供たちが夢を見られるまちにすること。どんなに時間がかかろうとも、次の世代の子供たちに未来のバトンを託す」と思い描く。その中で、「あゆの里」は人吉を最大限に楽しむプラットフォームになりたいという。